第3回「コツを抑えて、らくらく資本政策表作成3ステップ」
あなたの会社は「資本政策」を策定していますか?
資本政策とは資金調達と株主構成の計画を示すものであり、特に上場まで視野に入れている場合や外部資本の投資を受けようとする場合には必須と言っても過言ではありません。
今回は、まだ資本政策を作成していない方やこれから作成しようと考えている方に向けて、「資本政策って何?」「どういう風に作成するの?」といった概要説明から、作成の3ステップと作成時の注意点について、全4シリーズでお届けしていきます。
基本的な用語解説からスタートしていますので、前提知識が無い方でも、順に記事を読むことであなたの想いが反映された資本政策が策定できるようになっています。
※将来的にも上場せず自己資本のみで事業を行う方は、ご参考程度に読み流していただいても大丈夫かと思います。
第1回「株式と資金調達の未来マップ:資本政策とは何か?」
第2回「スタートアップこそ資本政策を作ろう!」
第3回「コツを抑えて、らくらく資本政策表作成3ステップ」
第4回「資本政策を作る際おさえておきたい3つのポイント」
目次
【ステップ1】必要な要素を洗い出す
資本政策を立てる最初のステップは、資本政策に必要な要素を洗い出すことです。
資本政策に必要な要素は以下の通りです。
- いつまでにどれくらいの資金が必要なのか?
- 株価はどのように推移していくのか?
- 誰がどれくらい株式を保有するのか?
- 上場したらどれくらいキャピタルゲインを得られるのか?
- 役員や従業員はどれほどインセンティブが得られるのか?
では、これらの要素を資本政策に用いるためには、どうしたら良いのでしょうか。
ゴールを明確に描く
資本政策を立てるのであれば、ゴールから逆算していきます。では資本政策を立てる上でのゴールはどこに設定するのか。これはどの会社でも「上場」がゴールになるのではないでしょうか
上述した要素を、ゴールに従って洗い出してみましょう。
・上場するまでにどれくらいの資金が必要なのか?
・上場までに株価はどのように推移していくのか?
・上場時に誰がどれくらいの株式を保有しているのか?
・上場したらどれくらいのキャピタルゲインが得られるのか?
・役員や従業員は上場したらどれくらいのインセンティブを得られるのか?
これらの観点から、上場したときの会社をイメージしましょう。
つまり、会社のゴールの状態を明確にしようとする行為は、事業計画を策定することと言い換えられるということです。
現在からゴールまでの道筋をシミュレートする
では事業計画を策定するにはどうしたらいいのでしょうか。
次は、ゴールから現在までを逆算していきましょう。
上述した5つの要素は、どのタイミングでどれほどの数値になっているのかを明確にします。
ここでのタイミングは、企業のある状態(資金調達ラウンド、投資ラウンド)を元に、設定していきましょう。
また、この逆算では主に、以下の数値についてシミュレートが求められます。
・必要な資金額
・株価と発行株数
・その株を誰が保有しているのか
実現可能性のある数値を設定していきましょう。
取れる手段や注意点
資本政策は、エクイティ・ファイナンスを前提にしていますので、株式を第三者に渡す必要があります。
しかし、「株式を渡す」と一概に言っても、その手段はさまざまです。
要素を洗い出すステップ1のまとめとして、「資本政策で利用できる手段」と「資本政策を立てる上での注意点」を紹介します。
資本政策で利用できる手段
資金を増やすためには「第三者割当増資」や「株式割当増資」といった、新株を第三者に渡す方法を選択しましょう。
2つの手段の違いは、「新規株主にも割り当てられ、持分比率に影響が出る(第三者割当増資)」か「既存株主のみに新株を割り当て、持分比率を維持する(株式割当増資)」かです。
上場時に役員や従業員にインセンティブを渡したい場合は「ストック・オプション」を付与しましょう。
ストック・オプションは、将来的に株価が上昇するにあたり、一定期間だけ決められた額で株式を購入できる権利のことです。
つまり、それまでに頑張ってくれた役員や従業員が安く株式を買えるようにすることを指します。
発行株式数を変更せずに、持分比率を変動させるには「株式譲渡」を行いましょう。
これは保有している株式を他の人に譲渡する方法のことです。
通常よりも大きな資金調達をしたい場合は「種類株式」を発行しましょう。
種類株式は、普通株式に株主になる権利以外の権利が付与されている株式です。
つまり、普通株式よりも高価で発行できます。
種類株式に付与される権利としては、「配当が優先的に受け取れる」といったものが多いです。
これらの方法を用いることで、ここまで明確にしてきた資本政策を実現させることができます。
例えば、「シードラウンドでVCに第三者割当増資を実施する」や「20XX年YY月に従業員にストックオプションを付与する」といった様子です。
そして、これらの内容をステップ2にて「資本政策表」に落とし込んでいきます。
資本政策を立てる上での注意点
実際に資本政策表に落とし込む前に、ここまでで構想してきた資本政策を以下の観点でフィードバックしてみましょう。
シードラウンドで株式を第三者に付与しすぎていないか?
もう一度、自分や経営陣の持分比率を確認しましょう。
創業初期に株式の多くを第三者が保有していると、重要な経営判断を迫られたときに、意思決定に時間がかかってしまうこともあります。
また、創業初期に多くの株式を第三者(仮にVC)が保有していると、シリーズAやBで資金調達を実施する際に、他のVCや投資家がその企業に参入しにくくなります。
理由としては、企業価値が徐々に上昇していき、同じ金額を投資していたとしても、その時点での企業価値から見ると手に入る株式数に差が出てしまうからです。
例えば、企業価値が5000万円の企業に、3000万円の投資をしたとします。
その企業が成長し、企業価値が5億円になった場合。そのタイミングで同じ3000万円の投資をしたとしても、すでに得られる株式の数は少なくなっています。
なぜかというと、1回目に投資した企業が安い投資価格で多くの株式を保有してしまっているからです。
これは大袈裟な例かもしれませんが、会社経営での意思決定を安定で自由にするために、また多くの投資家が参加しやすいよう環境を作るために、第三者へ株式を付与しすぎないようにしましょう。
従業員のストックオプションは設定できているのか?
上場まで一緒に頑張ってくれた従業員のために、ストックオプションを付与する準備を進めておきましょう。
ストックオプションは従業員にとって強力なインセンティブになります。また、そのインセンティブがあることで、より優秀な人材の獲得にもつながるでしょう。
メンバーが辞めたときの対応は準備できているのか?
創業メンバーが上場まで絶対にやめないとは限りません。その際に発生するのが、株式の所在問題です。
例えば、創業メンバーが上場前に会社を辞めたとします。当然創業メンバーなので、株式を保有しています。仮にそのまま株式を保有し、会社が上場したらどうなるのか。
そのメンバーが保有する株式の価値も高まり、売却することで大きな収益を得ることになります。
この問題を解消するためにも、資本政策を立てる際には「株主間契約」も合わせて作成し、締結しておきましょう。
株主間契約は、「実際に会社を辞めたら、持っている株式をこの金額で売却する」などのルールです。
人間関係の問題は必ず起きるため、これを締結しておくことで、最悪の事態を防げるでしょう。
【ステップ2】実際に資本政策表に落とし込む
ではここからは実際に資本政策表に落とし込んでいきましょう。
こちらのテンプレートを参考に解説を進めていきます。
各ワードの説明
まずは各ワードの説明をしていきます。
日付
どのタイミングで資金調達を実施するかを指しています。
前述したように、資金調達ラウンドに応じて記載するのがわかりやすいでしょう。
方法
資本政策を実施する方法のことです。上述した「資本政策で利用する手段」を参考にしてください。
株価
自社の株式がいくらなのかを指しています。上場前の企業は、株価を相対的に評価できないため、自分たちで計算して求めます。
計算方法はさまざまあり複雑なため、第4回で紹介いたします。
発行株式数と発行潜在株式数
発行株式数はすでに発行されている株式の数のことです。
発行潜在株式数は、ストックオプションのようにこれから発行される予定の株式のことです。
資本政策に重要な「株式の持分比率」に関与するのは発行株式数のみです。
しかし、発行潜在株式を、ストックオプションを行使するなどして発行株式に変更した場合、持分比率に影響がでますので注意しておきましょう。
初期値の入力とゴール設定
テンプレートを利用して、実際に数値を入力していきます。
まずは最上段の日付を全て入力し、全体の流れを把握します。
その後、どのタイミングで、どの方法を活用するのか入力します。
今回の場合は上場(株式公開)がゴールだったので、上場時の状態から全項目を埋めていき、細かな数値を設定していきます。
そこから逆算して各ラウンドの項目も埋めていきましょう。
各ラウンドでの株価設定
入力していくと、持分比率が思うような数値に定まらないことがあります。
その際は、上述した計算式を活用し株価を計算し直してください。
また、そこから微調整を繰り返し、納得のいく株価を設定しましょう。
【ステップ3】理想と現実の妥協点を見つける
資本政策表を埋められたら、最終調整に入りましょう。
持分比率と議決権
資本政策表を作るメリットは、株式の持分比率を守るためでした。
そのため、持分比率が過剰に下がっているのであれば、発行株式数を調整するか、株価を調整するのかを考えましょう。
持分比率の高さは、その会社の議決権の大きさに比例します。
これは会社法にて定義されていることです。
議決権に関する例を挙げると、会社の取締役を決定する場合、議決権の過半数(決議に参加している株主の議決権)が必要です。
つまり、ひとりの株主が株式を50%以上保有していると、その人の意向だけで取締役が決定してしまうのです。
もしこれが経営とは関係のない第三者だった場合、会社経営が安定しないため、このような事態は避けなければなりません。
こういった株式の持分比率に関するルールが会社法には規定されています。
会社経営に欠かせない決まりですので、持分比率には慎重になりましょう。
ステークホルダーの意見を聞いてみる
資本政策表を作成したら、ステークホルダーに意見を聞いてみましょう。また、VCや投資家など、専門知識を持った人物からの意見をもらい、表の修正改善に活かしてください。
ただし、投資家と経営者とで、利害関係が一致しているとは限りません。
そのため、全てを鵜呑みにするのではなく、なるべく広く意見を聞き入れ、最適な状態を目指していきましょう。
もちろん、高飛車な資本政策表になってしまっていることも考えられますので、客観的な評価を意識してください。
別シナリオを描いてみる
資本政策表は、何も1つに絞らなければいけないわけではありません。
1つ制作して、それ以外のシナリオも描いてみることで、新しいパターンも見つかるかもしれません。
慎重に資本政策表を作成することは重要ですが、1つに固執しすぎてもよくありません。
ベンチャーやスタートアップでは、柔軟性が求められますので、いくつもシナリオを用意し、いつでもピポットできるようにしておくのがベストでしょう。
まとめ
第3回では、資本政策表を作る方法を紹介してきました。
資本政策表は、3ステップで作成できます。
「前情報の洗い出し」「表に書き込み」「調整」でした。資金調達をする上で、資本政策は欠かせないものです。そのため、慎重に時間をかけて作る必要があります。
しかし、経営者が1人で考えていて完成するようなものでもありません。
実際に完成したり、行き詰まったりしたら、多くの人に声をかけ、少しずつ納得のいくものに調整していきましょう。
シリーズ最後となる第4回では、資金調達にいくら必要なのか、株価の詳しい算定方法について紹介していきます。