第1回「株式と資金調達の未来マップ:資本政策とは何か?」

あなたの会社は「資本政策」を策定していますか?

資本政策とは資金調達と株主構成の計画を示すものであり、特に上場まで視野に入れている場合や外部資本の投資を受けようとする場合には必須と言っても過言ではありません。

今回は、まだ資本政策を作成していない方やこれから作成しようと考えている方に向けて、「資本政策って何?」「どういう風に作成するの?」といった概要説明から、作成の3ステップと作成時の注意点について、全4シリーズでお届けしていきます。

基本的な用語解説からスタートしていますので、前提知識が無い方でも、順に記事を読むことであなたの想いが反映された資本政策が策定できるようになっています。

※将来的にも上場せず自己資本のみで事業を行う方は、ご参考程度に読み流していただいても大丈夫かと思います。

第1回「株式と資金調達の未来マップ:資本政策とは何か?」
第2回「スタートアップこそ資本政策を作ろう!」
第3回「コツを抑えて、らくらく資本政策表作成3ステップ」
第4回「資本政策を作る際おさえておきたい3つのポイント」

資本政策とは?

まずは資本政策の基礎的な知識から解説します。

資金調達と株主構成の計画書

資本政策は、株式の持分比率をあらかじめ決定しておくことです。
言い換えると、「誰に」「どのくらい」株式を渡すのかをあらかじめ決めておくことを指します。

この「あらかじめ」は、資金調達をするにあたり、株式を公開する「前」のことを指します。
また、株式公開とは、株式会社が自社の株式を自由に譲渡できるようにすることです。

ではなぜ資金調達をするにあたり、あらかじめ株式の持分比率を決めておく必要があるのでしょうか。

その理由は、株式の持分比率が会社経営に大きな影響を与えるからです。
株式会社において、株式を保有していることは会社経営に参画できることを意味します。

つまり、持分比率が大きくなるほど、会社経営に大きな決定権を持てるのです。

仮に、経営メンバーと意向の異なる第三者の持分比率が高くなってしまった場合、迅速な意思決定が妨げられてしまいます。
創業初期の会社は、売上や組織体制が不安定なため、意思決定の遅れが命取りです。

そのため、資本政策を作成しておくことで、株式公開したあとの会社経営の不安分子を減らせます。
つまり、資本政策は「資金調達と株主構成の計画書」と言えるでしょう。

資本政策が必要なケースと不要なケース

資本政策は、株式公開をするのであれば必ず立てておいた方がいいでしょう。
逆を言えば、株式公開をせず、負債や助成金での資金調達をするのであれば資本政策は不要です。

しかし現実問題として、創業初期の企業では負債での資金調達は現実的ではありません。
なぜならば、負債での資金調達は過去の実績を判断した上で実施されるからです。
つまり、実績のない創業初期の企業では、審査に落ちてしまうことが多いのです。

よって、創業初期に資金調達をしたいと考えるのであれば、株式での資金調達が現実的でしょう。

後戻りできないので、慎重に判断する

ここまで読んでくださった方の中には「持分比率は後々どうにかならないのか?」「修正できるのではないか?」と考えた方もいらっしゃるでしょう。

しかし、資本政策を後から立て直す、作り直すことは不可能に近いと言えます。

その理由の1つとして、経営側と資金調達先での資金力の差が挙げられます。
元々は経営者が株式を100%保有していますが、株式で資金調達をすることで、持分比率は徐々に低下します。

持分比率を再度高めるためには、資金調達先から株式を再度買い取るしか方法はありません。
ですが、資金調達先と経営者では資金力に圧倒的な差があり、買い取ることは実質不可能です。

ここまでで資本政策の重要性を少しでもご理解いただけたかとは思いますが、実際に資本政策を立てて資金調達に乗り出す企業は3割ほどしかありません。
さらに、資本政策を立てたとしても、その通りに資金調達ができる企業も非常に少数です。

つまり、資金調達を実施して問題が起きてからでは遅く、しっかりと慎重に資本政策は立てる必要があると言えます。

資金調達の方法

資本政策の基礎的な知識を解説しましたが、その中でも「資金調達」という言葉を何度も使用しました。
ここからは、資金調達にどのような方法があるのかを解説します。

デット、エクイティ、アセット

資金調達は、主に次の3種類が挙げられます。

  • デット・フェイナンス
  • エクイティ・ファイナンス
  • アセット・ファイナンス

デット・ファイナンスは「負債(debt)」による資金調達です。
銀行からの借入や社債の発行がこれに当てはまります。
純粋に他者(他社)から「お金を借りる」というお金の集め方のことで、デット・ファイナンスには返済の義務があります。

エクイティ・ファイナンスは「株式資本(equity)」による資金調達です。
自社が持つ株式をVCや事業会社などに渡し、その対価として資金を獲得します。返済の義務はありませんが、株式と同時に議決権も譲渡されます。
また株式には複数種類があり、議決権以外の権利が付与される株式も存在します。

アセット・ファイナンスは「資産(asset)」を元手に行う資金調達です。
土地等の不動産や売掛債権といった、企業が保有する資産を担保として資金調達を行います。
アセット・ファイナンスで重要なのは、企業の信用よりも資金調達の対象となる資産の価値なので、信用力が小さい企業でも利用できるのが特徴です。

資金調達せず、自己資本のみで経営できるのが理想的ですが、現実はそう上手くいきません。自社に合った形で最適な資金調達方法を選びましょう。

資本政策で扱う調達方法

資本政策で扱う資金調達方法は、エクイティ・ファイナンスです。

株式で発生する、経営に関する諸問題をあらかじめ防ぐために資本政策を作るからです。
そのため、資本政策を立てるにあたり、株式に関する知識が求められます。

以後3回に分けて株式に関する解説も行いますので、そちらもぜひ参考にしてください。

よく使われる用語解説

資本政策に関する全4回のシリーズで、よく利用される用語を解説します。
わからない単語があればこちらの章に戻っていただき、その都度ご確認していただければと思います。

VC

VC(Venture Capital)は、多くの投資家から資金を集め、投資家を代表してベンチャー企業へ投資する組織のことです。
投資したベンチャー企業が成長し、売却等が決定した際に発生する資金を投資家に返すビジネスモデルを採用しています。

VCは、投資するベンチャー企業がIPOもしくはM&AといったExitの状態まで持っていく必要があるため、状況に応じて経営支援を行います。

IPO

IPO(Initial Public Offering)は新規公開株のことです。
株式を証券取引所に上場し、誰でも自由に株取引ができる状態にすることを指します。
IPOすることで、株取引が一斉に行われ、株式価格が高騰します。
その結果、IPO以前に株式を保有していた人は大きな収益を得ることになります(キャピタルゲイン)。

M&A

M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業を合併(Merger)するために買収(Acquisition)することです。
M&Aされる企業は、「株式会社」と「資金」を交換するため、企業価値に応じて収益を得ます。

Exit

Exitは出口という意味で、IPOもしくはM&Aをすることで、大きな収益を得ることを指します。
多くのスタートアップ企業(ベンチャー企業)は事業を手放して収益化することを目的にしているため、Exitと呼ばれています。

まとめ

資本政策に関するシリーズの第1回は、資本政策の基礎と資金調達の種類について解説しました。

資本政策の基礎では、資本政策が「資金調達と株主構成の計画書」であることを中心にお伝えしました。
資本政策を立てておかなければならない理由は、一度低下した株式の持分比率を再度高めるのが難しいからです。

そのため、慎重に作成する必要がある一方で、資本政策を立てたとしてもほとんどの場合で計画通りにはいきません。
だからこそ、「誰に」「どれくらい」株式を渡すのか時間をかけて判断しましょう。

また、資金調達には大きく分けて3種類あることも解説しました。
負債(デット)、株式資本(エクイティ)、資産(アセット)とありますが、資本政策ではエクイティでの資金調達が扱われます。

よって、2回から4回までの資本政策の解説では、株式に関する知識もさらに深掘りしていきたいと思います。

最後に、この記事の3章ではよく使われる用語について解説していますので、記事を読む参考にしていただければと思います。